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[記事公開日]2021/04/05

理学部地球科学科 久保篤史講師が2021年度日本海洋学会岡田賞を受賞

・受賞概要

 日本海洋学会岡田賞は年度の初めに(4月1日現在)36歳未満の日本海洋学会員で、海洋学において顕著な学術業績を挙げた者の中から選考を経て選ばれます。この度、本学の久保篤史講師が受賞することとなりました。

 

・受賞対象課題

 東京湾における二酸化炭素収支の解明を主とした沿岸域の物質循環研究

 

・日本海洋学会長による推薦理由

 沿岸域は、海洋全体の面積に占める割合は小さいものの、生物活動による有機物の生産や分解がきわめて活発であるため、全球規模での二酸化炭素収支に影響を及ぼしうる。従来の研究では、陸域起源有機物の分解に伴う二酸化炭素の生成量が多い沿岸域は、二酸化炭素を海洋から大気へと放出する場(放出域)であると考えられてきた。しかし、その考えを裏付ける観測データは限られており、個々の海域における二酸化炭素収支の見積もりには、大きな不確定性を伴うことが指摘されていた。

 久保篤史会員は、東京湾において、二酸化炭素分圧の観測を広域的かつ高頻度に実施し、湾全域における二酸化炭素の収支を高い精度で推定することに成功した。その結果、東京湾が全体として二酸化炭素の吸収域になっていることを明らかにした。この結論は従来の考え方を覆すものである。久保会員は、このような結果が得られた理由として、東京湾流域では下水処理の高度化によって陸域起源有機物の除去が進んだために二酸化炭素の放出海域が減少し、湾全体として二酸化炭素を吸収する側に傾いたものと考察した。さらに、沿岸域における二酸化炭素収支の仕組みを一般化した概念図を提示し、今後、世界の沿岸域で都市化が進むことにより、沿岸域の炭素収支が吸収側に偏っていくという予測を導いた。

 上記の研究に加え、久保会員は、東京湾の有機物や栄養塩の動態に関する研究においても、現場観測に基づく着実な研究成果を挙げている。特に、溶存有機物を生物分解性画分と難分解性画分に分け、それらの海水中濃度の季節変化および経年変化を明らかにし、各画分の起源を推定した研究や、海底堆積物を毎月採取し、有機炭素量・窒素量およびそれらの安定同位体比をもとに季節変化と堆積物の起源を明らかにした研究は、沿岸域における物質循環の理解を深めるうえで重要な成果である。さらに、東京湾中央部において20年以上にわたる栄養塩の長期データに減少傾向があることを見出し、その原因として下水処理の高度化を指摘している点も注目される。

 以上の研究は、東京湾を対象としつつも、その結果を幅広い視点から解析、総合化したもので、今後世界的に進行すると予想される沿岸域の都市化が物質循環に及ぼす影響を考えるうえで、ひとつの重要な足場を築いたものと高く評価される。これらの研究業績は日本海洋学会岡田賞にふさわしいものであり、久保篤史会員を受賞候補者として推薦する。


岡田賞受賞講演は2021年度日本海洋学会秋季大会(9月15日)で行われる予定です。