お知らせ > 受賞

[記事公開日]2017/05/30
[最終更新日]2018/03/02

平内講師が日本地質学会柵山雅則賞を受賞しました

地球科学科の平内健一講師が、2017年度日本地質学会柵山雅則賞(授賞対象:地質学に関して優れた業績を上げた、2016年9月末日で満37歳以下の会員)を受賞いたしました。
日本地質学会第124年学術大会(2017年9月16~18日)において授与式・受賞スピーチが行われます。

 

対象研究テーマ:沈み込み帯と蛇紋岩のレオロジー

 

平内健一会員は、蛇紋岩のレオロジーが沈み込み帯でのダイナミクスへ与える影響に関して、フィールド調査と室内変形実験の2つのアプローチによって取り組み、多くの成果を挙げて来た。
平内氏は最初に黒瀬川帯やフランシスカン帯においてフィールド調査を行い、蛇紋岩の構造解析や微細組織観察によって、その変成・変形履歴の解明に取り組んだ。従来、蛇紋岩はかんらん岩の変質物として厄介者扱いされ,構造地質学分野においても研究対象からは避けられる傾向が強かった。そうしたなか平内会員は蛇紋岩がもつ特異な物性に着目し、複雑な蛇紋石組織を丹念に読み解く地道な研究を丁寧に進めた結果、蛇紋岩が地表付近ではなく上部マントル相当深度で形成され、その後地表付近に定置されるという運動像を明らかにした。
学位取得後は、蛇紋岩が沈み込み帯プレート境界の力学特性に与える影響を評価するため、固体圧・ガス圧三軸変形装置を用いて蛇紋岩の高温高圧実験を行った。その結果、(1)地震発生帯の下限が前弧マントルウェッジにおける蛇紋石の存在により限られること、(2)プレート境界における力学的カップリングの程度が蛇紋石種の違いによって大きく変化すること、(3)蛇紋石の摩擦特性がスロー地震に代表されるゆっくりとした破壊を起こすには十分であること、などを明らかにした。また、日本学術振興会特別研究員時代に留学したユトレヒト大学では、回転式剪断試験機を用いて蛇紋石の熱水摩擦実験を行い、シリカに富むスラブ起源流体の存在によって蛇紋石が滑石へと相変化し、スラブ・マントル境界強度が著しく低下する可能性を明らかにした。これらの実験結果は沈み込み帯プレート境界域におけるすべり・流動様式に対して新たな知見を与え、地震学などの分野においても高く評価されている。静岡大学赴任後は学生とともにフィールド調査と室内実験を融合する研究スタイルを発展させ、沈み込み帯プレート境界で起きる様々な現象(スロー地震など)の解明に取り組んでいる。また最近では、かんらん岩試料の熱水変形実験に取り組み、海洋プレートの沈み込み発生機構として、トランスフォーム断層などの既存の断層面に沿った海水の浸透の重要性を指摘している。また、これまでに海洋研究開発機構による伊豆・小笠原弧における「しんかい6500」による深海底調査や新学術領域研究の「地殻流体」および「地殻ダイナミクス」に参加するなど活躍の場をさらに広げている。以上の高い実績と将来性により、平内健一会員を柵山雅則賞に推挙する。