2011.3.21作成
2011.4.08更新
2011年3月11日 東北地方太平洋沖地震(Mw9.0)

2011年3月11日14時46分,東北地方太平洋沖でマグニチュード9.0の地震が発生し,地震の揺れとそれに続く巨大な津波により多くの方々が命を奪われ,生活基盤を奪われました.被害にあわれたみなさまに,心からお見舞いとお悔やみを申し上げます.

   東北地方太平洋沖地震
<海溝型地震> 

東北地方の太平洋側では,太平洋プレートが北海道/東北地方が載っている北アメリカプレートの下に沈み込んでいます(図1).今回の地震はこの沈み込みに伴い両プレート間に蓄積されていた歪みが解放される形で起こりました.プレートの境界がすべり,日本海溝の下で太平洋プレートに押し込まれていた(図2の「引きずり込み」)北アメリカプレートがはね上がった海溝型地震です.

図1.日本周辺のプレートとその境界.
(地震調査研究推進本部パンフレットより)
図2.海溝型地震のメカニズム.
(地震調査研究推進本部)

<巨大地震>

宮城県沖では地震計による観測が始まって以降も比較的大きな地震(M7.5クラス)は起こっていました.これらの地震はアスペリティ(地震の際に強い地震波を出す場所)に応力を蓄積しては,破壊を繰り返してきました.これらの地震は空間的には比較的規則的に(互いの間を埋めるように)起こっており(図3左),また地震の起こっていない部分の多くは地震を伴わずゆっくりとすべることで応力を解放していると考えられていました.他方で地表のGPS観測点から,太平洋プレートの沈み込みに伴うプレート境界面の引きずり込みの分布を推定した結果からは,この地震の空白域(図3右)が強く固着していることも示されていました(図4). そんな中,2011年3月11日,M9.0というこの地域で特徴的とされてきたM7.5クラスの約130倍ものエネルギーを放出する巨大な地震が起こりました.アスペリティと言われていた複数の部分が同時にすべる(連動)地震でした.最も大きくすべった部分は図4の比較的強く固着していた部分のうち,牡鹿半島沖の10と書かれているあたりでした.この地域のエネルギーがここ最近解放されていないことは知られていました(図3右図のS3に対応)が,いつから解放されていないのかは不明であり(地震を伴わないゆっくりとしたすべりがGPSや微小繰り返し地震の観測から調べられるようになったのはごく最近のこと),多くの地震学者はこの地域が30mもすべる程のエネルギーを蓄積しており,普段M7.5クラスのアスペリティがこれほどまで大きく連動してすべるとは想定していませんでした.

図3.山中・菊池2001による過去の地震のアスペリティ分布.(左)アスペリティの空間分布.右側の南北の波線が海溝軸.(右)アスペリティでの蓄積の解放量の時空間分布.各パッチの横方向の長さは,各アスペリティでの地震時のすべり量をプレートの沈み込み速度で割った長さ(時間).空白の部分(例えばS2の部分)は,調べられた範囲で沈み込みにより蓄積された歪みエネルギーが地震によっては解放されていないことを示している. 図4.Suwa et al., 2006による,GPS観測による1997年から2001年までの地表変位から求めたプレート境界面の固着分布(赤色が濃いほど,北米プレートと太平洋プレートがより固着し,北米プレートが引きずり込まれている).コンターに書かれた数字の単位はcm.この地域は年間約10cmで太平洋プレートが沈み込んでいるので,10に近い程完全に固着して押し込まれていることを示す.

<東北地方太平洋沖地震のすべり分布>

静岡大学地球科学科では東北地方太平洋沖地震の後,国土地理院から地震前後の地表変位のデータの提供を受け,地震時(15:15の茨城県沖M7.9を含む地震後半日分の余震や余効変動による変位も混入している)のプレート境界面上でのすべり分布の推定を行いました(生田;図5.詳報リンク→).その結果,この地震ではSuwa et al., 2006で推定された,牡鹿半島沖の固着の強い領域が大きくすべり(約30m),三陸沖でも10から15m,また約30分後に茨城県沖で起こった地震に対応するように南側でも5m以上すべった箇所が見られました.

図5-a.地震時の水平変位とプレート境界面上でのすべり分布.地表の水平変位の観測値(白矢印),水平/鉛直変位から推定されたプレート境界面上でのすべり分布(赤色ほど大きい.黒矢印の方向にすべっている),すべり分布から再計算される地表変位(赤矢印). 図5-b.地震時の鉛直変位とプレート境界面上でのすべり分布.地表の鉛直変位の観測値(ピンクのバーが下向きを表す.ほとんど無いが水色は上向き),水平/鉛直変位から推定されたプレート境界面上でのすべり分布(aと同じ),すべり分布から再計算される地表変位(下向きは黄色,上向きは緑色の細いバー).

<津波を引き起こした海底の上下変動>

上述のすべりによって生じる海底の上下変動は図6aのように計算されます.海底の上下変動はそのまま海面の変化となり(図6b),ある程度その形を保ちながら津波として四方八方に伝搬します.
この計算結果は海面のへこみが最大3m,持ち上がりが最大10m近くにも達したことを示しています.震源域直上で生じた海面のへこみが,仙台湾周辺には最初に引き波として到達したと思われます.ただし引き波よりは押し波の方がはるかに大きく,また北側の三陸海岸や南側の福島県中部南部,茨城県などでは引き波はほとんど無く,いきなり押し波が到達したことがうかがわれます.

図6-a.地震時の地表の鉛直変位.赤の部分が持ち上がり,濃い青の部分が沈んでいる.持ち上がりは最大10m近くに達したと推定された.
(黒い線(日本海溝)より東側の細かい変動は計算上のエラーですから無視してください)
図6-b.地震時の海面の鉛直変位(左の図から任意の緯度を切り出してグラフにした).この形に津波が生じ,東西に伝搬する.沈んだ部分は引き波,持ち上がった部分は押し波として到達する. 図6-cプレート境界のすべりにより地表が隆起,沈降するメカニズム.地震時には上側のプレートの先端が跳ね上がることによって,根元では沈降が起こる.陸地の海溝軸(上側のプレートの先端)からの距離により,地震時に陸が沈下するか隆起するか決まる.

<東北地方太平洋沖地震が今後の日本列島に及ぼす影響>

地震によりプレート境界がすべると,その周辺の地殻への力のかかり方が変化します.本地震は400kmにわたって断層がずれたのですからその影響範囲が非常に広いであろうことは想像に難くありません.東北地方太平洋沖地震のプレート境界のすべりによる地殻内部の応力の再分配が,東海地方で将来発生が想定される地震の震源断層をすべりやすくするセンスで働いたのか,あるいは抑制するセンスで働いたのかをΔCFFを計算して評価しました.ΔCFFとは,ある走向(水平面を断層が切る向き)と傾斜をもった断層面上で,断層をすべらせる向きに働く応力の変化から,断層面に垂直にかかる応力による摩擦力の変化の影響を差し引いたものです.気象研究所が作成したMICAP-Gというソフトを用いて計算しました(里村;図7).その結果,東海地震,東南海地震ともに促進されるセンスであり,「すべらせる向きに働く応力の増加ー摩擦力の増加」が0.01〜0.03MPa(MPa:応力の単位)となりました.この値は地震時に解放するであろう応力(1〜数MPaと言われています)の数十から数百分の1程度の値です.それは例えば100年に一度起こる地震ならば,その発生時期が数分の1年〜数年早まることに相当します.

図7-a. 東北地方太平洋沖地震が,東海地震(駿河湾〜遠州灘東部)の走向傾斜,すべり方向を持つ地震の発生に及ぼす影響の計算結果.赤色部分が促進,青色部分が抑制.駿河湾では赤色(促進)で,すべらせる向きの応力が,摩擦力に対して相対的に0.03MPa増加する結果になっている. 図7-b. 東北地方太平洋沖地震が,東南海地震(遠州灘〜熊野灘)の走行傾斜,すべり方向をもつ地震の発生に及ぼす影響の計算結果.赤色部分が促進,青色部分が抑制.遠州灘〜熊野灘では赤色(促進)で,すべらせる向きの応力が,摩擦力に対して相対的に0.01〜0.03MPa増加する結果になっている.

東北地方太平洋沖地震後,静岡県では3月15日夜に富士山の真下でM6.4の地震が起こりましたし,3月12日長野県北部(M6.2),11日青森県西方沖(M6.6),また東北地方太平洋沖の本震の領域を含む部分でM6〜7後半の大きな余震が頻発しています.
図8は静岡大学教育学部小山教授による今回の地震と2004年スマトラ沖地震の比較解説です.スマトラ沖地震以来6年間にわたり,その断層域を広げるようにして周辺でM8クラスの地震が起こっています.本震と同じプレート境界面上でとなりあう領域で,本震と同じメカニズムの地震を想定した場合にはΔCFFは非常に大きく(地震発生を促進するセンス)なります.今回の東北太平洋沖地震の震源域周辺では,南側の房総沖では太平洋プレートが北米プレートではなくフィリピン海プレートの下に沈み込んでいますし,北側では1994年三陸はるか沖地震(M7.6)や2003年十勝沖地震(M8.0)などが既に起こっており,スマトラ沖に比べると状況は幾分複雑ですが,スマトラ沖巨大地震後と同様の状況は充分生じ得ることだと考えられます.

図8.小山教授による「東日本沖で起きた巨大地震について」から転載.
関連リンク
<東北太平洋沖地震の特集を組んでいる大学>(各組織のトップにリンクを貼りました.特集ページはトップから入れます)
<国立研究機関・省庁>(分りにくい所もあるので特集ページに直接リンクを貼りました)
<海外>(主に断層モデル;特集ページに直接リンクです)
Copyright (C) 1996-2010  Department of Geosciences, Shizuoka University. All right reserved.
このホームページに掲載している記事・写真・図表の無断使用はご遠慮ください.